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僕のNSP日記~其の161 

菊下君も何曲かオリジナルを作っていた。僕の曲は以前NSPっぽ過ぎるとの意見が出てたので菊下君の曲で勝負しようと提案した。汚れの無いピュアな恋愛ソングが沢山あった。僕はその中の「秋の空みたいな♪そんな君に♫」と歌い出す「雨宿り」という楽曲がいいと思い提案した。

僕のNSP日記~其の162

「出演が10月。季節感は大事。『雨宿り』はバッチリだと思うよ」それまで黙っていた岩地君はそう言った。3人は直ぐにアレンジに取り掛かった。イントロ、間奏。菊下君は「これエレキでバイオリン奏法したいから恭司君歌ってよ」「いいけど、それだと2曲とも僕が歌う事になるよ」

僕のNSP日記~其の163
僕たちは学校が終わると毎日の様に菊下君家の蔵で練習を重ねた。
夏祭りで演奏した時からファンみたいな女の子が2人現れた。決して彼女ではなかった。その子たちは雑用をしてくれたりラジオに出演した際のリクエストの準備をしていた。そしてとうとう北上公開録音の日は来た。

僕のNSP日記~其の164

僕は前の日に番組担当者に電話を入れたところアンプは持って来て欲しいと言われ「さとう屋楽器店」の社長に電話を入れて相談をした。「ようし、貸してやるから朝取りに来い」そう言ってくれてメンバー3人と女の子2人と友達2人の計7人でアンプとギターを一関駅のホームまで運んだ。

僕のNSP日記~其の165

「頑張ってね」女の子も友達も声をかけてくれた「ラジオ聞いてるから頑張れよ」僕たちは盛岡行きの特急に乗った。列車が走り出してから気づいた。「この機材どうやって降ろす?」向こうみずとは正にこの事だった。北上で降ろす事も会場まで運ぶ手段なんて誰も考えていなかった。

僕のNSP日記~其の166

僕たちはデッキにずっといた。今思うほど困ってもいなかった。何とかする気持ちしかなかった。切符を見に来た車掌さんに岩地君がこう言った。「僕たちこれからラジオ番組に出演するために北上で降りるんです。降りる時手伝ってもらえませんか?」「ラジオに出るの?わかった」

 

僕のNSP日記~其の167
北上駅に着くと車掌さんはもう1人の車掌さんと機材を降ろすのを手伝ってくれた。更に駅員さんに「この子たちラジオの生放送に出るんだ」と言って会場まで行くバス停まで運んでくれバスに積んでくれて「リクエストアワー聴いてるから頑張って」とまで言ってくれ本当に嬉しかった。

僕のNSP日記~其の168

僕たちがバスを降りると目の前には会場があった。僕は岩元君と菊下君に「ギターとか見張ってて。担当者に会ってくるね」そう言って会場の中に入って行った。中では別の出演グループがリハーサルをしていた。台本を読んでいた男の人に「一関から来たJUNですけど」と言った。

僕のNSP日記~其の169

「あれっ?3人グループじゃなかった?」「はい、メンバーはバス停にいます。機材運ぶのを誰か手伝って頂けませんか?」その男の人はスタッフに声をかけて一緒にバス停に向かった。歩きながら僕にこう言った。「ちょうど今日NSPの担当プロモーターが来る事になってるんだよ」

僕のNSP日記~其の170

「えっNSPの関係者ですか?」「新しいLPの宣伝でね。来たら紹介するよ。僕はこの番組の担当の小林です。よろしく」FMリクエストアワーに出演するだけでも舞い上がっているのにNSPの関係者の前で演奏するなんて小学校の運動会からいきなりオリンピックに出るような気分だった。

僕のNSP日記~其の171

担当の小林さんは僕たちが運んで来た機材を見て驚いた。「3人でどうやって運んで来たの?」「それぞれの場所で沢山の人に手伝ってもらいました」そう答えると「その事を人気があると言うんだよ。君たち期待できるな」と笑った。僕たちはステージに機材をセッティングし始めた。

僕のNSP日記~其の172
いよいよ僕たちのリハーサルの番が来た。ますば得意の「コンクリートの壁にはさまれて」で景気づけた。演奏が終わると客席で見ていた男の人が僕たちに向かってこう言った。「この曲以外は演奏しないの?」僕は「もう一曲やります」「じゃこの曲はやらないでください」「えっ⁈」

僕のNSP日記~其の173
その男の人は続けて言った。「この曲はNSP本人がコンサートで演奏をまだした事がない。素人が先にラジオで演奏する事は許可出来ない」それを聞いた小林ディレクターは「許可がでないならしかたがないね。でも一曲は演奏出来るから」と言って席を立った。僕は「もう一曲作ります」

 

僕のNSP日記~其の174

小林ディレクターが「作る⁈どういう事⁈」「本番までまだ3時間あるので作ります。出来たら聞いて頂いて大丈夫なら歌わせてください。3分空けておいてください、お願いします!」小林ディレクターは「わかった」とだけ言った。僕たちはギターを持って会場近くの河原に向かった。

僕のNSP日記~其の175

僕の頭の中には様々な考えが渦巻いていた。NSPのプロモーターは僕たちの能力を試しているのかも知れない。今から一曲作ると言っても作りかけている曲は何曲もあった。菊下君が作った「雨宿り」はオーソドックスなラブソング、ならばインパクトのある曲名にしようと思っていた。

僕のNSP日記~其の176

今朝家を出た所で隣りのヤク◯の人が僕の肩をポンと叩いて「兄ちゃん、ギターだいぶ上手くなったなぁ」と言ってくれた。それが妙な自信に繋がっているのも感じていた。菊下君も岩元君も「あんな事言って恭司君考えある?」「あるよ。とっておきの曲があるんだ。『結婚ごっこ』」

僕のNSP日記~其の177


「結婚ごっこ⁈、、イイね!きっとウケるよ」そう言ってくれる感性は一流だった。「先ずはサビからで、『これが私とあなたの結婚ごっこ』この繰り返しにしよう。ボーカルは菊下君にしよう。ギターソロはいらない。途中からテンポを変えようNSPの『待っても待っても』みたいにさ」

僕のNSP日記~其の178

歌詞とメロディを作るのに1時間と3人で練習を1時間、本番の1時間前には小林ディレクターに聞いてもらっていた。「君たち、本当に今作ったの?」「はい」「『結婚ごっこ』か。インパクトあるよ。いいよ、2曲演奏して」「ありがとうございます!」僕たちは水をがぶ飲みした。

僕のNSP日記~其の179

昭和49年10月19日土曜日。FMリクエストアワー北上公開放送が始まった。僕たちは3グループ中2番目の出演だった。最初の出演者が終わり司会者が「次は一関からやってきたJUNの皆さんです!」そう話すと僕たちは深呼吸をしてステージに出た。「雨宿り」のイントロを始めた。

僕のNSP日記~其の180

僕は歌いながらNSPと1年前に出会い今この舞台に立つまでを振り返っていた。両親は離婚して家族はバラバラになったけどバンドの仲間とこうしてラジオに出演して歌っている。そして心の中には天野くんがいつもいた。半年前の若柳公民館、ここにはもっと沢山のお客さんがいた。

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